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人も動物も健康で幸せに暮らせる社会へ。

金森 万里子

実行中

更新日:2020.09.18

私は農村地域の健康問題、とくに心の健康に焦点を当てた研究を行っています。データ解析によって、健康格差や健康の社会的決定要因を明らかにしています。並行して、健康な地域づくりについて考えるワークショップを主に酪農業界で働く女性の皆さんとともに行っています。よりよい地域のあり方・人と動物の共生について、みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。

キーワード

アクション詳細

目指す社会のあり方、ビジョン

人も動物も健康で幸せに暮らせる社会が、目指している社会です。

北海道の酪農地域での臨床獣医として牛を診る中で、農家さんやご家族の健康問題や地域の課題について話をききました。牛が病気になると、人は経済的負担のみならず、看病するための労働の負担も増え、精神的なショックも受けます。動物の健康は、人の健康に深く関わっていることを実感しました。

地域の課題解決のために、何かできることを増やしたいと思って大学院に進学しました。現在は、人に視点をうつして、公衆衛生学・社会疫学という分野で研究を進めています。

大学院での学びでとても興味深かったのは「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)」です。個人の健康には、年齢や遺伝、生活習慣も関係しますが、さらに、それらに大きく影響する要因として、所得や教育環境、つながりの豊かさ、治安や交通などの生活環境などの社会的要因があります。健康格差の縮小のためには、誰もが影響を受けるこのような社会的要因にアプローチしていくことが必要です。(図:Dahlgren and Whitehead 1991をもとに近藤尚己先生が作成したものを提供いただきました)

このような社会的要因は、動物の健康や幸せにも大きく関わると直感しました。人と動物との共生のあり方を模索するうえで、欠かせない視点だと考えています。相互に関連し合っている、人・動物・生態系の健康や福祉を高めるための一つの力として、今後も研究の力で貢献していきたいです。

現状とビジョンのギャップ、課題の構造

■ 都市-農村の健康格差の現状
動物が過ごしやすい環境に恵まれた農村地域。しかし様々な国において、都市よりも農村において自殺率が高まっていることがわかってきています。その背景には、教育面や経済面で不利になりやすい環境や、文化や規範など多くの社会的要因が関係していると考えられます。人と動物の共生に取り組むうえで、生き心地のよい地域づくりに必要な要因を明らかにすることや、住んでいる方たち自身が住みたい地域づくりを叶えられるようなサポート(エンパワーメント)が必要だと考えています。

■ 助けを求めづらい雰囲気の社会
自殺予防には助けを求めやすい環境づくりが大切だと言われています。人は誰でも、困難な状況が複数降りかかり追いつめられると、自死に陥ってしまう可能性があります。強くタフでいなければ、というような「男らしさ」も、助けを求めることを阻害する要因の一つと考えられています。また、日本の動物をとりまく現状には悲しくつらい部分もありますが、そういう気持ちを吐き出すことができる場は限られていると感じます。これまで話しづらかった、人間社会の矛盾ともいえるようなテーマを、オープンに話し合っていける雰囲気づくりが必要です。

アプローチの方法

東京大学大学院医学系研究科の博士課程の学生として、疫学や統計学の手法を用いて、農村地域の自殺の社会的決定要因についての研究を進めています。

データ解析と並行して、主に酪農業界で働く女性とともに、講演会やワークショップを行っています。生き心地のよい地域づくりについて一緒に考えると同時に、地域の現状や悩みについて知ることで、研究の着想や分析結果の解釈に役立てています。

今後、より動物と人間との共生に焦点を当てた研究・活動を進めていくため、動物に関わる職業の方、多分野の研究者、多様なバックグラウンドの方とのつながりを広げていきたいと思っています。

これまでの活動実績

【酪農や畜産が盛んな地域で自殺率が高い傾向を明らかに】

私が牛の獣医師として働いていたとき、自死で亡くなった方の話を聞く機会が多くありました。農家さん、従業員さん、人工授精士さん、農協の方、獣医師…様々な職業の方が地域の産業にかかわっていますが、何か共通の生きづらさに関連する要因があるのではと考え、研究を計画しました。単に自分の耳に入りやすいだけなのか、本当に自殺率が高いのか、データを用いて調べました。
その結果、酪農や畜産が盛んな地域では、過去25年間にわたり、男女ともに自殺率が高かったことがわかりました。本当に自殺率が高かったことに驚くと同時に、さらなる原因の解明や対策の充実の必要性を強く感じました。
● Webサイトで日本語で概要を解説しています。酪農・畜産産出額が高い地域で高い自殺率
● 発表論文:Mariko Kanamori, Naoki Kondo. Suicide and Types of Agriculture: A Time-Series Analysis in Japan. Suicide and Life-Threatening Behavior. June 2019. https://doi.org/10.1111/sltb.12559 (どなたでも無料でご覧になれます) TOP DOWNLOADED PAPER 2018-2019(2018年1月~2019年12月に出版された論文のなかで、上位10%に多くダウンロードされました)

【乳児死亡率に職業間格差があることを明らかに】

酪農家女性から、妊娠中の酪農の仕事の大変さ、子育ての際の苦労について話を聞くなかで、子どもの健康を支える社会環境に、世帯の職業による格差があるのではと感じていました。
政府公表データを分析して世帯の主な仕事別の乳児死亡率を比較したところ、大企業などで働く世帯に比べ、農家世帯は約2倍、無職の世帯は6.5倍高かったことが明らかになりました。またこの職業間格差の大きさは地域によって違いがありました。
職場や家庭環境、経済状況、医療機関の利用しやすさ等が背景にある可能性があり、妊婦や子どもを守る地域環境づくりを進めていく必要があります。
● Webサイトで日本語で概要を解説しています。乳児死亡率の職業間格差が拡大傾向
● 発表論文:Mariko Kanamori, Naoki Kondo, Yasuhide Nakamura. Infant mortality rates for farming and unemployed households in the Japanese prefectures: An ecological time trend analysis, 1999-2017. Journal of Epidemiology. February 2020. https://doi.org/10.2188/jea.JE20190090 (どなたでも無料でご覧になれます)

【出身国別の都市-農村の自殺率格差を明らかに:ストックホルム大学との共同研究】

スウェーデン全国民のデータを分析した結果、農村では都市に比べ男性の自殺率が高いことがわかりました。農村地域の住人の中でも、出身国によって自殺のリスクが異なっており、海外出身者は特に、都市・農村の自殺率格差が大きい傾向がみられました。
世界的に国際的な移民が増加しているなかで、福祉国家として有名なスウェーデンにおいても、移民がどのように社会に適応していくか、議論が巻き起こっています。国の移民政策や地域環境、移民に対する差別等により、移民は深刻な健康問題に苦しんでいる可能性があります。日本の農村でも海外出身者とともに生活する機会は増えており、共通の課題があると思います。
● Webサイトで日本語で概要を解説しています。出身国別の、都市・農村の自殺率格差
● 発表論文:Mariko Kanamori, Naoki Kondo, Sol Juarez, Andrea Dunlavy, Agneta Cederström, Mikael Rostila. Rural life and suicide: does the effect of the community context vary by country of birth? A Swedish registry-based multilevel cohort study. Social Science & Medicine. March 2020. https://doi.org/10.1016/j.socscimed.2020.112958 (どなたでも無料でご覧になれます)

今後のマイルストーン

今後の研究成果についても、Webサイト等でお知らせしていきます。共感していただける方、何か一緒にやりたいという方、Facebook等でぜひ連絡をください!

アクションリーダー プロフィール

金森 万里子

獣医師。公衆衛生修士。東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻博士課程。ストックホルム大学Department of Public Health Sciences客員研究員。
北海道大学獣医学部卒業後、北海道別海町にて牛の臨床獣医として勤務した経験を活かし、牛の健康から人の健康へ視点を変えて研究を行っている。専攻は公衆衛生学・社会疫学。農村地域の自殺の社会的決定要因について、国際学術誌に複数の原著論文を掲載。日本学術振興会特別研究員。今後、より動物と人間との共生というテーマに焦点を当てた研究・活動を進めていくため、つながりを広げている。動物ブログ「犬曰く」にて、スウェーデンの狩猟文化とアニマルウェルフェアについて記事を執筆。

応援メッセージ

  • 非常に興味深いです!

    2020.09.18

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