温室効果ガス排出緩和と気候変動に適応する食糧安定生産の取組

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

温室効果ガスの1つであるメタン。日本でのメタン排出のうち45%は稲作由来で、排出量の削減が求められています。この問題を解決するために、農業に起因する温室効果ガスの排出をリアルタイムに測定する技術を用いて、水田を乾かす「中干し」の最適な期間を解明することで、水田から排出されるメタンの量を平均で30%削減する技術を確立しました。また、遺伝子(ゲノム)情報やDNAマーカー選抜技術を活用し、高温年でも品質や収量が安定し病害虫に強い「高温障害適応水稲品種」も開発しました。この技術は、農業由来の温室効果ガス排出削減を実現するだけでなく、開発品種を地域ブランド化することにより、地域振興にも貢献しています。
アクション詳細
目指す社会のあり方、ビジョン
水田からの温室効果ガス排出抑制による地球温暖化の緩和と、気候変動による農作物の品質低下回避と安定生産に向けて、データサイエンスと最先端の育種技術を活用したいと考えています。
現状とビジョンのギャップ、課題の構造
農業に起因する温室効果ガスの排出量削減は、日本において緊急の課題となっています。温室効果ガスの1つであるメタンの排出では、驚くことに稲作由来が日本全体の45%を占めています。また、近年では夏季の高温傾向が、水稲の収量や品質低下に悪影響を及ぼし、高温年でも品質や収量が安定し病害虫に強い品種の開発が求められています。
メタン発生量の季節変動(地点A)
アプローチの方法
私たちは、農業に起因する温室効果ガス3成分(メタン、二酸化炭素、一酸化二窒素)の排出を同時に測定する技術を用いて、水田を乾かす「中干し」の最適な期間を解明することで、水田から排出されるメタンの量を平均で30%削減する技術を確立しました。また、ゲノム情報やDNAマーカー選抜技術を活用し、高温年でも品質や収量が安定し病害虫に強い「高温障害適応水稲品種」も開発しました。この技術により、気候変動による夏季の高温傾向がもたらす農作物の品質低下回避と安定生産を可能にし、農業由来温室効果ガスの排出削減を実現するだけでなく、開発品種を地域ブランド化することにより、地域振興にも貢献しています。
農業に起因する温室効果ガスの発生メカニズム
これまでの活動実績
まず、温室効果ガス3成分の同時測定技術を用い、温室効果ガスの季節変動パターンを把握しました。さらに、複数地域においても温室効果ガス排出と水稲の生産性の関係を定量的に把握し、それらの計測結果から、メタン排出量が抑えられる「中干し」に最適な期間を解明しました。この「中干し」期間の調整によって、収量や品質への影響なくメタン排出量を平均で30%削減する技術を確立しました。
現在、インドの水稲研究機関との共同研究へと発展しており、海外への適用拡大も期待されます。
高温年でも品質や収量が安定し病害虫に強い「高温障害適応水稲品種」の開発においては、ゲノム情報やDNAマーカー選抜技術を活用した品種開発に取り組みました。具体的には、高温下でも品質が安定し、病害虫(トビイロウンカや縞葉枯病等)に強い品種を開発。農作物に及ぼす温暖化の負の影響への対策とともに、地域ブランド米の安定生産を実現しました。「高温適応種」として、「にこまる」(2006年)、「笑みの絆」(2011年)、「恋の予感」(2014年)、「秋はるか」「にじのきらめき」(2018年)の栽培を開始しています。
これらの成果は、日本全国、さらには世界への展開可能性を持つことが高く評価され、2019年度「STI for SDGs」アワード(第1回)「優秀賞」を受賞しています。
水田で用いる可搬型自動サンプリング装置と、写真の温室効果ガス3成分同時分析装置によって、温室効果ガス3成分の濃度変化を同時に測定
高温障害適応品種(右)の導入により、食糧の安定供給を目指す
今後のマイルストーン
私たちは、この技術を東南アジアに輸出し、アジアモンスーン地域での稲作による温室効果ガスの削減にも貢献したいと考えています。
必要なリソースや提案したいこと
日本人が毎日食べるお米が安定的に収穫でき、かつ環境負荷が小さくなるように、という思いで研究を行っています。農地の土壌差や気候等、条件が異なる環境でも同様の効果が見込める点がこの取り組みのメリットです。
アクションリーダー プロフィール
- 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
団体/企業詳細
- 団体名
-
- 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
- 連携パートナー
-
- 島津製作所
コメントを残す