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当事者研究によるダイバーシティ&インクルージョンの社会実装

東京大学先端科学技術研究センター 准教授 熊谷 晋一郎

アイディア段階

更新日:2021.12.20

「当事者研究によるダイバーシティ&インクルージョンの社会実装」を目指しています。

自分や他人が気付きにくい障害や病気を持った人は、自らの困りごとを表現したり他者と共有したりすることが困難な状況に置かれる場合が少なくなく、悩みをひとりで抱え込むことにもつながります。こういった気づきにくい困りごとを表現する方法を探り、周囲とともに困りごとの背景にあるメカニズムを探り、対処法を考え実験的に実践していくのが「当事者研究」です。

自らの悩みを表現できずに抱え込んでしまう状況は、障害や病気を持った人に限って起こるものではありません。企業や組織においても個々人の苦しみが放置されることはウェルビーイングや活躍の可能性を損ないかねないのです。

そこで、障害を持った人のために開発された「当事者研究」の手法をより普遍的なものに発展させ、組織に所属する多様なメンバーのウェルビーイング向上と活躍を目指します。

キーワード

アクション詳細

目指す社会のあり方、ビジョン

様々な組織やコミュニティにおいて、ダイバーシティ、インクルージョンの理念や文化を実装し、多様なメンバーのウェルビーイングと活躍が実現した社会を実現することは重要です。そのためには、スティグマ(偏見や差別的な態度)の低減や高信頼性といった要素がキーワードとなってくると考えています。

すべての人には、得意な部分もあれば、苦手な部分もあります。インクルーシブな組織を実現するには、それを過大にも過小にも評価せず、互いに協力し合うことが不可欠です。しかし、偏見によって過小評価にさらされたり、苛烈な競争的環境の中で自分を過大に見せざるを得ず、困りごとをひた隠しにし、相互不信に陥ったりすることは珍しくありません。

この取り組みでは、スティグマをなくし、困りごとを安全に共有できる高い相互信頼を実現するために、多様な人々が、等身大の自分を認め、互いを理解し合う「当事者研究」の手法を活用します。そして、当事者研究によって、スティグマの低下や信頼醸成が実際に起きたか、測定尺度を用いたモニタリングを行います。

これらを通して、多様な人々が等身大の自分を安全に認められ、相互理解と相互信頼によって協力できる組織文化を実現します。

アプローチの方法

人は、自分や他人から把握されにくい困難を抱えた時に、「自分が何に困っているのか、何を求めているのか」をうまく表現できず、孤立することが少なくありません。場合によっては、周囲から問題行動とみなされる表現をとってしまい、さらなる孤立に陥る場合もあります。場合によっては、その行動が、その人の属性と安易に結びつけられて、偏見を向けられることもあるでしょう。周囲の人も、その人の困難を把握できず、どのようにサポートをすればよいのかわからなくなる場合もあるかもしれません。

そういった、表現しにくい「困りごと」を抱えた人が、類似した困りごとを抱えた仲間とともに、自身の状況を自ら研究して、困りごとの表現を探り、メカニズムを探求し、対処法を考え実践する活動を、私たちは「当事者研究」と呼んでいます。もともとは、発達障害や精神障害のある人々の間で始まりましたが、最近は、子どもや子育て世代の親、企業で働く人々や研究者、医療職やアスリートなど、障害の有無を超えて人知れず苦労を抱え込んで孤立しがちな様々な人々の間で広がりつつあります。当事者研究では、自分の苦労の解釈や対処法を専門家だけに任せるのではなく、自らが研究者となって引き取り、日常生活の中で仮説検証を繰り返すことで、「自分が自分の困りごとの専門家になる」のです。

自分の困難を共有可能な表現で周囲と探求できるようになれば、孤立から解放され、信頼や所属感が高まり、一人では気付かなかった良い対処法の発見や、組織が抱えている課題の解決にもつながる可能性があります。

私たちは「当事者研究」の方法をより広く活用できるものに発展させ、多様な人々が安心して等身大の自分でいられ、相互理解と相互信頼に基づく共同によって課題に向き合える組織文化を実現させます。

これまでの活動実績

当事者研究の社会実装に向けて、具体的な課題ならびにその解決手法について企業・NPO法人・社会福祉法人といった多様な分野・立場の方々とのディスカッションを実施しました。その中で、下記の案を取りまとめました。

【組織内において想定される課題】

組織やコミュニティにおいて、各メンバーが、各々どんな「困りごと」を有しているのか。それを周囲だけでなく、当人さえも把握できない、言語化できない場合があり、ゆえに周囲からの理解を得られていないケースがあります。競争的な環境では、自分の困りごとを把握していたとしても、周囲には安全にそれを開示できず、孤立しながら自分に鞭打って、等身大以上のパフォーマンスに駆り立てられることもあるでしょう。

また、等身大の深い相互理解ではなく、表層的な行動の違いを安易に各々の属性の違いに帰属させてしまい、相互不信やスティグマにつながってしまうこともあります。スティグマを向けられると、名誉を挽回しようとして、困りごとを開示せずに抱え込み、自分に無理をして過度に頑張ってしまうことも珍しくありません。

信頼性の低さやスティグマの蔓延は、ウェルビーイングの低下だけでなく、組織全体のパフォーマンスの低下にもつながることが知られています。

【解決手法案と展開プラン】

スティグマの蔓延状況をモニタリングするために、マイクロアグレッション(意識の有無を問わず地位、特徴、帰属などに基づいて他者をけなすような日々のやりとり)の自己報告とライフログによって、日々の無理解な言動を見える化し、その頻度等を明確にします。また、その影響による当人のストレス反応と業務効率への影響の計測を試みます。

さらに、信頼醸成の程度をモニタリングするために、「謙虚なリーダーシップ」「心理的安全性」「知識の交換」といった指標を測定し、それが、「メンバーの創造性」の促進にどうつながるかを検証します。

加えて、当事者研究の導入効果を検証するために、上記のモニタリング指標の変化を測定します。得られた結果をもとに、組織等をよりダイバーシティ&インクルージョンにするための事業提案を進めます。

そのほか、当事者研究以外の優れた取り組み(障害のある人への雇用創出や職域拡大の取り組み、マイノリティによる組織のコ・アセスメント、VRなどを活用した疑似体験など)の可視化も進めます。

今後のマイルストーン

TEAM EXPO 2025 プログラム「共創チャレンジ」への応募や、資金の獲得に向けた準備、当事者研究の効果測定(事前事後アンケート、行動計測)を実施します。

事業化に向けては、東京大学エクステンションのインクルーシブデザインスクールを活用します。

アクションリーダー プロフィール

熊谷 晋一郎

東京大学先端科学技術研究センター 准教授

団体/企業詳細

団体名
  • 東京大学先端科学技術研究センター 准教授 熊谷 晋一郎
連携パートナー
  • 株式会社シアン 岩井隆浩/ヤマハ発動機株式会社 小川詩音/一般社団法人WheeLog 織田友理子/NPO法人ETIC. 北川幸子/社会福祉法人太陽の家 山下達夫/NPO法人ETIC. 佃真衣/帝京科学大学 非常勤講師/日本科学未来館元SC 熊谷香菜子

応援メッセージ

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